登山中のスマホ圏外リスクに備える連絡手段として、アマチュア無線ハンディ機の活用を強く推奨します。
おすすめしている私もここ半年の間に、
・スマホが圏外
・登山道がわからない
・日暮れ時間が近い
という状況に遭遇し、「遭難」が頭をよぎりました。
陽が落ちてきて、山の中は暗くなってきます。
何度も、何度も登山道を見失いました。
YAMAP地図を見ながら、登山道を探したのですが、ピンクリボンが少ないうえに、踏み跡もわからない箇所が多く、進む方向がわかりませんでした。
そして、登山道を見失うたびに、このまま暗くなってしまったら、動かないほうがいい。
と、万が一の際の想定を考え始めました。
食料は足りない。(行動食と水はあり)
寒さ対策も十分ではない。(保温着、レインウェアはあり)
・・・早く下山しなければ。。
焦りました。
結果、この日は明るいうちに車をとめた場所まで辿り着くことができました。
まだ、怪我していないので良かった、
体力も残っていたからよかったと、
ホッとしました。
今回は遭難こそしませんでしたが、無事に明るいうちに下山できるように余裕を持った行動が必要です。
この経験から気にするようになったのが、スマホの電波状況です。
もし何かのトラブルに遭遇したときに連絡がとれるかどうか、これは重要なポイントです。
もし圏外で滑落して骨折でもしたら、
たまたま通りかかるかもしれない登山者に気づいてもらう、
林業などの山で仕事をされる方に気づいてもらう、
帰りが遅いと家族に気づいてもらう、
そんな途方もないチャンスを待つだけしか対応方法がない
そう考えると、こわいですね。
そんなことを考えて、アマチュア無線にたどり着きました。
スマホとは別の手段で、連絡が取れる方法として、もともと趣味だった「アマチュア無線」のハンディ機を購入し連絡手段のひとつとして加えました。
なぜなら、携帯電話の電波が届かない山岳地帯でも、アマチュア無線は誰かに届けばよいこと、中継局(レピーター)が多数あるので、これを利用することで広範囲の通信が可能となり、遭難対策や緊急連絡に非常に有効な手段だからです。
スマホの圏外と、アマチュア無線の電波の届く範囲は全く別物です。
この記事では、スマホが繋がらないことによる危険性から、登山におけるアマチュア無線の重要性、必要な免許やハンディ機の選び方、初心者にも分かりやすい実践的な活用方法(レピーター利用、D-starやC4FMといったデジタル通信の活用法)、グループ登山での連携、そして万が一の遭難時に役立つ具体的な連絡プロトコルや救助要請のポイントまでを網羅的に解説します。
この記事を読むと、登山の安全確保に不可欠な通信手段の知識が深まり、アマチュア無線ハンディ機導入への不安を解消し、より安全で安心な登山を楽しむための具体的な方法が分かります。
登山中にスマホが繋がらない問題とは
登山は、美しい自然を満喫できる素晴らしいアクティビティですが、都市部とは異なる通信環境のリスクが潜んでいます。
日常生活では多少電波が繋がらなくても、Webが検索できないとか、メールが届かない、電話ができないなどありますが、一時的なものなので特に問題になることもないでしょう。
しかし、どうしても連絡を取りたいときに電波が繋がらないことは、これが安全上の大きな課題となっています。
ここでは、なぜ山でスマホが繋がりにくくなるのか、そしてそれがどのような危険につながるのか、通信手段を確保することの重要性について解説します。
山間部での通信インフラの限界
私たちが普段使っているスマートフォンは、携帯電話基地局からの電波を受信することで通信を行っています。
しかし、山間部では以下のような理由から、安定した通信環境を維持することが困難になります。
- 地形の影響: 山や谷などの複雑な地形は、電波の直進性を妨げ、電波が届きにくい「不感地帯(圏外)」を生み出します。
特に谷底や山の北斜面などは電波が遮られやすい傾向にあります。
私が遭難をしかけた田舎の山間部は、低山ではありますが、山々の斜面に囲まれていて、携帯電話の電波が届きにくい地形となっています。 - 基地局の設置状況: 携帯電話基地局は、主に人口密集地や主要道路沿線に設置されています。
登山道や山頂付近など、利用者が限られる場所への基地局設置はコスト面から進んでおらず、基地局からの距離が遠くなるほど電波は弱くなります。 - 電波の特性: スマートフォンで利用される周波数帯の電波は、障害物に弱く、減衰しやすい性質を持っています。木々が生い茂る樹林帯なども電波を弱める要因となります。
各携帯電話キャリア(NTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルなど)は、それぞれサービス提供エリアマップを公開していますが、マップ上でエリア内と表示されていても、実際の登山道ではピンポイントで繋がらない場所が多く存在するのが実情です。
電波の状況は天候によっても左右されるため、過信は禁物です。
スマホ通信が途切れることによる危険性
登山中にスマートフォンが「圏外」になることは、単に不便なだけでなく、深刻な事態を招く可能性があります。
具体的にどのような危険性が考えられるでしょうか。
危険性の種類 | 具体的な状況 |
---|---|
道迷い・現在地不明 | 地図アプリで現在地を確認できない、ルートから外れた場合に正しい位置を把握できない。 「圏外」でも現在位置は確認できる場合あり。 |
情報収集の困難 | 天候の急変(雷、豪雨、強風など)に関する最新情報を得られない、下山先の交通機関の運行状況を確認できない。 |
救助要請の遅延 | 怪我や体調不良、滑落などのアクシデント発生時に、迅速に警察や消防(110番、119番)へ救助を要請できない。 |
同行者との連絡途絶 | グループ登山ではぐれた場合や、別行動中のメンバーと連絡が取れず、安否確認や合流が困難になる。 |
家族・関係者への連絡不可 | 下山予定時刻を過ぎても連絡が取れず、地上で待つ家族や関係者に無用な心配をかける。また、緊急時の安否連絡もできない。 |
実際に、携帯電話が繋がらないことによる救助要請の遅れが、事態を深刻化させるケースは少なくありません。
警察庁の発表する山岳遭難の概況においても、連絡手段の確保は重要な課題として挙げられています(参考: 令和5年における山岳遭難の概況 – 警察庁生活安全局生活安全企画課)。
通信手段確保の重要性
上記のような危険性を考慮すると、登山においてスマートフォン以外の信頼できる通信手段を確保することがいかに重要であるかがわかります。
特に、携帯電話の電波が期待できない山域へ入る場合や、難易度の高い登山に挑戦する際には、万が一の事態に備えることが極めて重要です。
天候の急変、予期せぬ怪我や体調不良、道迷いなど、山では様々なトラブルが発生する可能性があります。
そのような状況下で、外部と連絡を取り、助けを求めることができるかどうかが生死を分けることさえあります。
安全登山の基本として、通信手段の確保は食料や装備と同等、あるいはそれ以上に重要な準備項目と言えるでしょう。
ソロ登山の場合
特にソロ登山(単独行)においては、通信手段の確保は絶対条件と言っても過言ではありません。
グループ登山であれば、他のメンバーが救助を要請したり、助けを呼んだりすることが期待できますが、ソロ登山の場 合は自分自身で対処するしかありません。
万が一、行動不能になった場合、外部に助けを求める唯一の手段が、持参した通信機器となります。
スマートフォンが圏外であれば、誰にも気づかれずに時間が経過し、発見が遅れるリスクが格段に高まります。
ソロ登山を行う場合は、携帯電話の電波状況を事前に確認することはもちろん、圏外エリアでの活動を想定した代替通信手段を必ず携行するようにしましょう。
また、家族や友人に詳細な登山計画書を提出し、定期連絡の方法を取り決めておくことも重要です。
登山における連絡手段の選択肢
登山中にスマートフォンが圏外になることは珍しくありません。
万が一の事態に備え、確実な連絡手段を確保しておくことは、安全登山において極めて重要です。
ここでは、スマホ以外に考えられる主な連絡手段と、それぞれの特徴について解説します。
衛星電話のメリットとデメリット
衛星電話は、地上にある携帯電話基地局ではなく、宇宙空間の通信衛星を経由して通信を行う電話です。
そのため、携帯電話の電波が届かない山奥や海上など、地球上のほぼどこからでも通信できるという大きなメリットがあります。
緊急時には最後の砦となり得る非常に頼もしい通信手段ですが、導入と維持にはコストがかかる点が主なデメリットです。
具体的なメリット・デメリットを以下にまとめます。
項目 | 内容 |
---|---|
メリット | 通信エリアが非常に広い(携帯電話の電波が届かない場所でも通信可能) 災害時など、地上の通信インフラがダメージを受けた際にも利用できる可能性が高い 緊急連絡手段としての信頼性が高い |
デメリット | 端末価格および通信料が高額 端末が比較的大きく重い場合がある バッテリーの持続時間に注意が必要 屋内や深い谷底など、空が開けていない場所では繋がりにくいことがある |
本格的な長期縦走や海外登山、辺境地への登山など、リスクの高い登山においては有力な選択肢となります。
サービス提供会社としては、KDDIなどがイリジウム衛星電話サービスを提供しています。
詳細は各社のウェブサイトで確認できます。
トランシーバーの特徴と限界
一般的に登山で「トランシーバー」としてイメージされることが多いのは、「特定小電力トランシーバー」でしょう。
これは、無線従事者免許や無線局免許が不要で、購入後すぐに誰でも手軽に使うことができる無線機です。
主に、グループ登山のメンバー間での近距離連絡に用いられます。その特徴と限界は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
特徴 | 免許・資格不要で手軽に導入できる 端末価格が比較的安価 小型軽量なモデルが多い グループ内での簡単な連絡(先行・後続の状況確認など)に便利 |
限界 | 通信距離が短い(市街地で100m~200m、見通しの良い場所で1km~2km程度が目安) 山や建物などの遮蔽物に非常に弱い 出力が小さいため、谷間や樹林帯などでは通信距離がさらに短くなる チャンネル数が限られており、他の利用者の混信を受ける可能性がある 緊急時の外部(救助隊など)への連絡手段としては基本的に使えない |
特定小電力トランシーバーは、あくまで近距離での補助的な連絡手段と考えるべきです。
スマホが圏外になるような山域で、緊急連絡や遠距離通信を目的とする場合には力不足と言えます。
アマチュア無線ハンディ機が注目される理由
上記のような衛星電話の高コストやトランシーバーの通信距離の限界を踏まえ、登山における有効な連絡手段としてアマチュア無線ハンディ機が注目されています。
アマチュア無線は、趣味(アマチュア業務)として無線通信を行うためのものであり、利用するには無線従事者免許と無線局免許が必要です。
免許取得の手間はありますが、それを上回るメリットが登山での活用において期待できます。
- 特定小電力トランシーバーよりも格段に広い通信範囲: 出力が大きく、より遠くまで電波を飛ばすことができます。見通しが良ければ数十km以上の交信も可能です。
- 中継局(レピーター)の利用: 全国各地に設置されているアマチュア無線用の中継局(レピーター)を利用することで、山間部など直接電波が届きにくい場所からでも、通信距離を大幅に伸ばすことができます。
- 緊急通信への活用: 非常通信(遭難や災害時など、人命救助や秩序維持のために行われる無線通信)に利用することができます。決められた周波数で救助を求める呼びかけを行うことが可能です。
- 多様な通信方式: 音声だけでなく、データ通信(位置情報など)が可能なデジタル方式(D-STAR、C4FMなど)も利用できます。
- 情報交換とコミュニティ: アマチュア無線を通じて、他の登山者や山麓の無線家と情報交換を行ったり、山岳地域の気象情報を得たりすることも可能です。
もちろん、アマチュア無線機も万能ではなく、地形や気象条件によって通信状況は変化しますし、適切な運用知識が必要です。
しかし、スマホが圏外となる山岳地帯において、比較的低コストで広範囲な通信を確保できる可能性を持つ手段として、その価値が見直されています。
次の章からは、このアマチュア無線ハンディ機について、さらに詳しく解説していきます。
アマチュア無線ハンディ機の基礎知識
登山中の確実な連絡手段として注目されるアマチュア無線。
しかし、「そもそもアマチュア無線って何?」「使うにはどうすればいいの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この章では、登山での活用に不可欠なアマチュア無線ハンディ機の基礎知識をわかりやすく解説します。
アマチュア無線とは何か
アマチュア無線とは、「金銭上の利益のためではなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う自己訓練、通信及び技術的研究」を目的とした無線通信のことです。
仕事や業務連絡など、営利目的での利用は法律で固く禁じられています。
あくまで個人の趣味として、無線技術を探求したり、仲間とのコミュニケーションを楽しんだりするためのものです。
登山においては、携帯電話の電波が届かない場所での仲間同士の連絡や、万が一の際の非常通信手段として、その役割が期待されています。
アマチュア無線を通じて、他の登山者や山小屋、場合によっては救助機関と連絡を取れる可能性があり、安全確保に大きく貢献します。
免許制度と資格の取得方法
アマチュア無線を利用するためには、「無線従事者免許」と「無線局免許」の2つの免許が必要です。
これは自動車の運転に例えると、運転免許証と車検証のような関係にあります。
- 無線従事者免許: 無線設備を操作する人に必要な資格です。
知識や技能に応じて第一級から第四級までの区分があります。 - 無線局免許: 使用する無線機(アマチュア局)ごとに必要な免許です。
無線機が技術基準に適合していることを証明し、コールサイン(呼出符号)が指定されます。
登山で一般的に使用されるハンディ機(携帯型無線機)を操作するには、主に「第四級アマチュア無線技士(4アマ)」または「第三級アマチュア無線技士(3アマ)」の資格が必要です。
これらの資格を取得する方法は、主に以下の2つです。
取得方法 | 概要 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
国家試験 | 公益財団法人 日本無線協会が実施する試験を受験し、合格する。 | 費用が比較的安い。自分のペースで学習できる。 | 合格するための学習が必要。試験日が限られる。 |
養成課程講習会 | 総務大臣認定の団体(例:日本アマチュア無線振興協会(JARD)や日本アマチュア無線連盟(JARL)など)が実施する講習会を受講し、修了試験に合格する。 | 短期間(例:2日間)で資格取得が可能。合格率が高い傾向にある。 | 国家試験より費用が高い場合がある。講習日程に合わせる必要がある。 |
どちらの方法を選ぶかは、ご自身の学習スタイルやかけられる時間、費用などを考慮して決めると良いでしょう。
国家試験や養成課程講習会の詳細については、以下のウェブサイトで確認できます。
資格を取得後、使用する無線機を用意し、管轄の総合通信局へ無線局の開局申請を行うことで、晴れてアマチュア無線を運用できるようになります。
登山で使えるハンディ機の種類と選び方
登山で使用するアマチュア無線機は、携帯性に優れた「ハンディ機」が主流です。
しかし、様々な機種があるため、どれを選べば良いか迷うかもしれません。
ここでは、登山用途に適したハンディ機の選び方のポイントを解説します。
まず考慮すべきは、使用する周波数帯です。
登山では、比較的遠くまで電波が届きやすく、また多くの登山者が利用しているVHF帯(144MHz帯)とUHF帯(430MHz帯)の2つの周波数帯(デュアルバンド)に対応した機種が一般的です。
これにより、より多くの交信機会を得やすくなります。
また、アマチュア無線にはアナログ方式とデジタル方式があります。
近年はデジタル方式(D-STARやC4FMなど)に対応した機種も増えており、音声がクリアである、インターネット網を経由して遠距離通信が可能になるなどのメリットがあります(デジタル方式の詳細は別章で解説します)。
初心者の方は、まずはアナログ方式での運用から始め、必要に応じてデジタル対応機を検討するのが良いでしょう。
初心者におすすめのエントリーモデル
初めてアマチュア無線ハンディ機を購入する場合、操作が比較的シンプルで、基本的な機能を備えたエントリーモデルから始めるのがおすすめです。
国内の主要メーカーであるアイコム、八重洲無線(スタンダード)、アルインコなどから、初心者向けの機種が多数販売されています。
選ぶ際のポイントとしては、
- 基本的な送受信操作が分かりやすいか
- 表示が見やすいか(バックライトの有無など)
- 自分の取得した資格(4アマ/3アマ)で操作できる範囲の出力か
- 予算に合っているか
などを考慮すると良いでしょう。
高機能な機種は魅力的ですが、使いこなせなければ意味がありません。
まずは必要最低限の機能を持つモデルで無線運用の基本を身につけることが大切です。
バッテリー持続時間で選ぶ
登山では、バッテリー切れは通信手段の喪失を意味するため、バッテリーの持続時間は非常に重要な選択基準です。
日帰り登山か、山小屋泊か、テント泊かなど、自身の登山スタイルに合わせて、十分な容量を持つバッテリーを備えた機種を選びましょう。
多くのハンディ機にはリチウムイオンバッテリーが採用されており、小型軽量ながら比較的大容量です。
機種によっては、より大容量のバッテリーパックがオプションで用意されている場合もあります。
選定のポイントは以下の通りです。
- メーカー公称の運用時間を確認する(ただし、実際の運用時間は送信頻度や受信状態、気温などにより変動します)
- 省電力機能(バッテリーセーブ機能)の有無とその効果を確認する
- 予備バッテリーの入手しやすさや価格を考慮する
- モバイルバッテリーからの充電に対応しているか確認する(対応機種は限られます)
特に泊まりがけの登山では、予備バッテリーを必ず携行することを強く推奨します。
また、低温下ではバッテリー性能が低下するため、冬山などではバッテリーを保温する工夫も必要になります。
防水・耐衝撃性能をチェック
登山中は、突然の雨や霧、川の渡渉などで無線機が濡れたり、あるいは誤って落としてしまったりする可能性があります。
そのため、厳しい自然環境に耐えうる防水・防塵性能や耐衝撃性能を備えているかどうかも重要なチェックポイントです。
防水・防塵性能は、「IPコード」で示されます。「IP」に続く2桁の数字のうち、1桁目が防塵性能(0~6)、2桁目が防水性能(0~8)を表します。例えば「IP67」であれば、「粉塵の侵入が完全に防護され、かつ、規定の圧力、時間で水中に浸漬しても有害な影響を受けない」レベルを示します。
登山用途では、少なくともIPX4(水の飛沫に対する保護)以上、できればIPX7(一時的な水没に対する保護)やIP67/IP68などの高い防水性能を持つ機種を選ぶと安心です。
耐衝撃性については、アメリカ国防総省制定のMIL規格(MIL-STD-810Gなど)に準拠している機種は、落下などの衝撃に強い設計となっています。
岩場などでの活動が多い場合は、こうした耐衝撃性能も考慮に入れると良いでしょう。
これらの性能は、万が一のトラブル時にも無線機が確実に機能するために不可欠な要素です。
機種選定の際には、スペック表をよく確認し、ご自身の登山スタイルに合った性能を持つモデルを選びましょう。
登山時のアマチュア無線ハンディ機活用法
登山において、スマートフォンの電波が届かない状況は珍しくありません。
そんな時に頼りになるのがアマチュア無線ハンディ機です。
ここでは、登山でアマチュア無線ハンディ機を最大限に活用するための具体的な方法を解説します。
山岳地帯での通信可能範囲
アマチュア無線ハンディ機の通信可能範囲は、基本的に「見通し距離」に依存します。
つまり、送信側と受信側の間に山などの障害物がない直線距離であれば、比較的遠くまで電波が届きます。しかし、山岳地帯では地形が複雑なため、通信範囲は大きく変動します。
- 稜線や山頂付近: 見通しが良いため、数十km以上の通信が可能な場合があります。
- 谷間や沢筋: 周囲を山に囲まれているため、電波が遮蔽され、通信範囲は極端に狭くなります。数100m程度しか届かないこともあります。
- 樹林帯: 樹木が電波を減衰させるため、見通しが良くても通信距離は短くなる傾向があります。特に湿った樹木は影響が大きくなります。
使用する周波数帯によっても特性が異なります。
一般的に登山で使われるVHF帯(144MHz帯)は、UHF帯(430MHz帯)に比べて障害物にやや強く、回り込みやすい特性があるとされますが、アンテナは長めになります。
一方、UHF帯はアンテナが短くコンパクトで扱いやすいメリットがあります。
ハンディ機の出力(通常5W以下)やアンテナの種類(付属ホイップアンテナか、利得の高いロングアンテナかなど)も通信距離に影響を与えます。
アマチュア無線の中継局システム(レピーター)の利用
直接通信(シンプレックス通信)では届かない場所でも、「レピーター」と呼ばれるアマチュア無線用の中継局を利用することで、通信範囲を劇的に拡大できます。
レピーターは、多くの場合、山頂など見通しの良い場所に設置されており、ハンディ機からの弱い電波を受信し、より強力な電波で広範囲に再送信してくれます。
レピーターを利用するには、使用するレピーターの周波数、トーン周波数(混信を防ぐための信号)、オフセット周波数(送信と受信の周波数差)を無線機に設定する必要があります。
レピーターの情報は、日本アマチュア無線連盟(JARL)のウェブサイトなどで公開されています。
登山前に、行動予定エリアで利用可能なレピーターを調べておくことが重要です。
デジタル通信方式の、D-starとC4FMの違い
近年、アマチュア無線ではアナログFM方式に加え、デジタル通信方式も普及しています。
代表的なものに「D-STAR」と「C4FM」があります。
デジタル通信には、以下のようなメリットがあります。
- クリアな音声: アナログ特有のノイズが少なく、了解度の高い通信が可能です。
- データ通信: 音声だけでなく、GPS位置情報などのデータ通信も可能です。
- 秘話性: 特定のグループ間での通信がしやすい機能があります(ただし、傍受が完全に不可能になるわけではありません)。
D-STARとC4FMは異なる方式であり、基本的に互換性はありません。
それぞれの特徴を理解して、自分の用途に合った方式を選ぶことが大切です。
D-starとは
D-STAR (Digital Smart Technologies for Amateur Radio) は、JARLが開発を推進した日本発のデジタル通信方式です。主な特徴は以下の通りです。
- GPS連携: 対応機種では、音声と同時にGPSによる位置情報を送信できます。
これにより、相手局の場所をリアルタイムで把握でき、登山においては遭難対策としても非常に有効です。 - ゲートウェイ通信: インターネット網に接続されたレピーター(ゲートウェイ局)を経由することで、日本全国、さらには世界中のD-STAR局と交信することが可能です。
- 対応メーカー: 主にアイコム株式会社が対応機種を製造・販売しています。
D-STARに関する詳しい情報は、JARLのD-STAR情報ページで確認できます。
C4FMとは
C4FM (Continuous 4 level FM) は、八重洲無線株式会社が推進するデジタル通信方式で、「System Fusion」とも呼ばれます。主な特徴は以下の通りです。
- 高音質: 音声品質を重視した設計で、非常にクリアな通信が可能です。
- AMS (Automatic Mode Select): 受信した信号がアナログFMかC4FMデジタルかを自動で判別し、適切なモードで受信・応答できる便利な機能です。相手がアナログ機でもデジタル機でもスムーズに通信を開始できます。
- グループモニター (GM) 機能: グループメンバーが通信範囲内にいるかどうかを自動でチェックし、メンバーの距離や方角を表示する機能があり、グループ登山での連携に役立ちます。
- 対応メーカー: 主に八重洲無線株式会社が対応機種を製造・販売しています。
項目 | D-STAR | C4FM |
---|---|---|
推進 | JARL / アイコム | 八重洲無線 |
主な特徴 | GPS連携、ゲートウェイ通信 | 高音質、AMS機能、GM機能 |
互換性 | 方式間での直接的な互換性なし(一部ゲートウェイ経由等を除く) |
グループ登山での連絡調整に活用
グループ登山において、アマチュア無線ハンディ機はメンバー間のコミュニケーションを円滑にする強力なツールとなります。
携帯電話の電波が不安定な場所でも、以下のような場面で確実に連絡を取り合うことができます。
- 先行・後続メンバーとの距離確認: 列が長くなった場合でも、お互いの位置を確認し合えます。
- 休憩や集合の連絡: 次の休憩ポイントや集合時間をスムーズに伝えられます。
- ルートの確認や分岐での指示: 道迷いのリスクを減らし、安全なルート選択を共有できます。
- メンバーの体調確認: 体調が悪くなったメンバーが出た場合、迅速に状況を把握し、対応を協議できます。
グループで利用する場合は、事前に使用する周波数(シンプレックス周波数)を決めておくことが重要です。
また、他のグループとの混信を避けるために、トーンスケルチ機能(CTCSSやDCS)を設定すると良いでしょう。こ
れにより、同じ周波数でも設定したトーン信号が一致しない限り、音声が聞こえないようにできます。
緊急時の呼びかけ方法
万が一、登山中に遭難や事故などの緊急事態が発生した場合、アマチュア無線は救助を求めるための重要な手段となります。緊急時の呼びかけには、定められた手順や周波数があります。
- 緊急呼び出し周波数: 一般的に、VHF帯では145.00MHz、UHF帯では433.00MHzがメインチャンネル(呼出周波数)として広く使われています。
まずはこれらの周波数で呼びかけてみましょう。
地域によっては、山岳地域専用の周波数が慣例的に使われている場合もあります。
事前に地域の情報を確認しておくと良いでしょう。 - 呼びかけの手順:
- まず、「緊急、緊急、緊急」または「非常、非常、非常」と3回繰り返して、緊急事態であることを明確に伝えます。
- 次に、「こちらは、(あなたのコールサイン)」と自局のコールサインを名乗ります。
- 続けて、「(場所)、(状況)、(必要な援助)」を簡潔かつ正確に伝えます。
場所は、山の名前、登山ルート、標高、GPS座標などが分かれば具体的に伝えます。 - 例: 「緊急、緊急、緊急。こちらは(コールサイン)。〇〇山の〇〇ルート、標高約〇〇メートル地点で滑落し、動けません。救助をお願いします。」
- 応答を待つ: 呼びかけ後は、しばらく応答を待ちます。
応答がない場合でも、諦めずに一定の間隔(例: 15分〜30分おき)でバッテリーの消耗に注意しながら呼びかけを繰り返します。 - 冷静な対応: パニックにならず、冷静に状況を伝えることが重要です。
アマチュア無線は、免許を受けた者だけが運用できる無線です。
登山での活用を考える場合は、必ず事前に無線従事者免許を取得し、無線局の開局申請を行ってください。
遭難対策としてのアマチュア無線活用術
登山中の万が一の事態、すなわち遭難時にアマチュア無線ハンディ機は命を繋ぐ重要なツールとなり得ます。
スマホが圏外となる山岳地帯において、アマチュア無線は外部との連絡を確保するための最後の砦とも言えるでしょう。
ここでは、遭難時にアマチュア無線を最大限に活用するための具体的な方法と知識を解説します。
遭難時の通信プロトコル
緊急事態が発生した場合、冷静さを保ち、確立された手順に従って通信を行うことが、迅速な救助に繋がります。
アマチュア無線には、法的に定められた特定の「非常通信周波数」というものは存在しませんが、慣習的に非常通信や呼び出しに使われる周波数があります。
一般的に、非常通信や緊急呼び出しには、各バンドの呼び出し周波数(メインチャンネル)が使われることが多いです。
例えば、430MHz帯であれば433.00MHz(FM)が広く使われています。
通信を開始する際は、以下の手順を参考にしてください。
- まず、メインチャンネル(例: 433.00MHz)で「緊急、緊急、緊急(または非常、非常、非常)」と3回繰り返します。
- 続けて、「こちらは(自分のコールサイン)、(遭難状況の概要)、(現在地)、応答願います」のように、簡潔かつ明確に情報を伝えます。
- 応答がない場合は、少し時間を置いてから再度呼びかけます。バッテリーの消耗を抑えるため、むやみに送信し続けないことが重要です。
- 誰かから応答があった場合は、落ち着いて詳細な状況を伝え、指示を仰ぎます。
日本アマチュア無線連盟(JARL)では、非常通信に関するガイドラインを公開しています。
事前に確認しておくことを強く推奨します。
参考: JARL 非常通信マニュアル
山岳救助隊との連携方法
アマチュア無線を使って、直接、山岳警備隊や警察・消防の救助隊と交信できる可能性は極めて低いと認識しておく必要があります。
公的な救助機関は、専用の無線システムを使用しているためです。
アマチュア無線が有効なのは、他のアマチュア無線家や、麓の連絡拠点(山小屋など、無線設備を持つ場合がある)に中継してもらい、間接的に救助要請を行うケースです。
呼びかけに応答してくれたアマチュア無線家に対し、警察(110番)や消防(119番)への通報を依頼することになります。
通報を依頼する際は、以下の情報を正確に伝える必要があります。
- 遭難者の氏名、年齢、性別、人数
- 遭難した日時と場所(できるだけ詳しく)
- 遭難状況(滑落、道迷い、病気、怪我の程度など)
- 食料、水、装備の状況
- 現在の天候
- 連絡者のコールサインと氏名
アマチュア無線はあくまで補助的な連絡手段であり、スマホの電波が少しでも入る場所があれば、まず110番や119番への直接通報を試みることが最優先です。
位置情報の伝え方と重要ポイント
救助活動において、遭難者の正確な位置情報は最も重要な要素です。
アマチュア無線で位置情報を伝える際は、聞き間違いや誤解を防ぐために、正確かつ分かりやすい表現を心がける必要があります。
伝えるべき位置情報の要素とポイントを以下にまとめます。
情報要素 | 伝える内容とポイント |
---|---|
GPS座標 | 緯度と経度を、度・分・秒(または度・分・小数点以下)で正確に伝えます。事前にGPSアプリやGPS専用機で取得・メモしておくことが重要です。「北緯○○度○○分○○秒、東経○○度○○分○○秒」のように、明確に読み上げます。 |
地図上の目標物 | 地図に記載されている山頂名、峠名、分岐点、沢の名前、尾根の名前、登山道の名称などを伝えます。「○○山の山頂から北東へ約500mの尾根上」「○○分岐から△△方面へ約30分歩いた地点の沢沿い」など、具体的なランドマークからの相対的な位置関係を説明します。 |
標高 | GPSや高度計で測定した標高を伝えます。「標高は約○○メートル」のように伝えます。地形の特定に役立ちます。 |
移動状況 | もし移動している場合は、その方向と速度、次の目標地点などを伝えます。「現在、○○方面へ下山中」「動けずにその場で救助を待っている」など。 |
その他目印 | 周囲に見える特徴的な地形(大きな岩、特徴的な形の木、滝など)や、持っている装備の色(テント、ウェアなど)を伝えると、捜索の助けになる場合があります。 |
数字やアルファベットを伝える際は、聞き間違いを防ぐためにフォネティックコード(通話表)を活用すると良いでしょう。例えば、「A」なら「アルファ」、「B」なら「ブラボー」のように伝えます。
例: 「現在位置は、北緯サンゴー(35)度、イチニ(12)分、ヨンサン(43)秒。東経イチサンナナ(137)度、ゴーゼロ(50)分、ニーイチ(21)秒。標高はイチゴーマルマル(1500)メートル。○○分岐付近です。」
実際の救助事例から学ぶ無線活用法
過去の山岳遭難事例の中には、アマチュア無線が有効に活用され、人命救助に繋がったケースが報告されています。これらの事例から学ぶべき教訓は多くあります。
例えば、
- 日頃からの無線機の操作訓練とバッテリー管理の重要性: いざという時に慌てず操作でき、バッテリー切れで使えないという事態を防ぐ。
- レピーター(中継局)情報の事前収集: 登る山の周辺で利用可能なレピーターを調べておくことで、通信可能範囲を広げられる可能性がある。
- 冷静な情報伝達の訓練: パニックにならず、必要な情報を簡潔かつ正確に伝える練習をしておく。
- 諦めずに呼びかけを続ける精神力: すぐに応答がなくても、バッテリー残量に注意しながら、定期的に呼びかけを行う。
一方で、無線機を持っていたにも関わらず、電波が届かなかった、バッテリーが切れた、操作方法が分からなかった、といった理由で活用できなかった事例も存在します。
これらの失敗事例からも、事前の準備と訓練がいかに重要かを学ぶことができます。
私は、登山には毎回持っていくようにしています。
電池の持ちはどうか、直接通信や、レピーターはどこで受信できるか、確認のために他の方の交信を聞きながら登山しています。
具体的な事例については、山岳会やアマチュア無線クラブの会報、ウェブサイト、または日本アマチュア無線連盟(JARL)が発行する情報誌などで紹介されることがあります。
プライバシーに配慮された形で公開されている情報を参考に、自身の備えを見直しましょう。
山岳遭難の実態については、警察庁が統計情報を公開しています。
どのような状況で遭難が発生しやすいかを知ることも、有効な対策の一つです。
参考: 地域警察活動に関する統計資料 – 警察庁Webサイト (山岳遭難の概況が含まれます)
アマチュア無線は、適切な知識と準備があれば、登山における遭難リスクを低減させるための強力なツールとなります。
しかし、過信は禁物であり、他の安全対策(登山計画書の提出、十分な装備、体力維持、天候判断など)と組み合わせることが不可欠です。
登山用ハンディ機の携帯と運用テクニック
アマチュア無線ハンディ機は、登山の安全確保に役立つ重要なツールですが、その性能を最大限に引き出すためには、適切な携帯方法と効率的な運用テクニックが不可欠です。
いざという時に確実に機能させるため、また、快適な登山を楽しむためにも、ここで紹介するポイントをしっかり押さえておきましょう。
効率的な携帯方法とアンテナ設置
ハンディ機をどこに、どのように携帯するかは、操作性や通信品質に直結します。
また、アンテナの選択と設置方法も電波の送受信効率を大きく左右します。
携帯場所の選択肢とポイント
携帯場所 | メリット | デメリット | ポイント |
---|---|---|---|
ザックのショルダーハーネス | ・アクセスしやすい ・アンテナを高い位置に保ちやすい ・スピーカーマイクとの相性が良い | ・雨に濡れやすい ・枝などに引っ掛けやすい ・転倒時に破損しやすい | ・専用ホルダーやポーチを使用 ・落下防止ストラップは必須 |
ザックのサイドポケット | ・比較的保護されやすい ・出し入れは容易 | ・アンテナがザック本体に近くなり、送受信効率がやや落ちる可能性がある ・機種によってはアクセスしにくい | ・深いポケットを選ぶ ・落下防止策を講じる |
ザックの雨蓋(トップリッド) | ・アクセスしやすい ・アンテナを高い位置に保ちやすい | ・雨に濡れやすい ・ザックの開閉時に邪魔になることがある | ・防水対策を施す ・落下防止策を講じる |
ウエストベルトのポーチ | ・アクセスしやすい ・身体に密着させられる | ・アンテナが低い位置になる ・歩行時に邪魔になることがある | ・身体の側面に装着するなど工夫する |
いずれの場所に携帯する場合でも、落下防止用のストラップやカラビナを必ず装着しましょう。
不意の落下は故障の原因となります。
アンテナの重要性と設置
ハンディ機に標準で付属しているアンテナ(ホイップアンテナ)は携帯性に優れますが、送受信性能は限定的です。
より良好な通信を確保するためには、オプションのアンテナへの交換が有効です。
- ロングアンテナ: 標準アンテナより長く、利得(電波を送受信する効率)が高い。
見通しの悪い場所での通信改善が期待できる。 - 折り畳み式アンテナ: 長さを確保しつつ、携帯時には折り畳めるタイプ。
- 高利得ホイップアンテナ: 標準アンテナに近い形状で、性能を向上させたもの。
アンテナを選ぶ際は、使用する周波数帯に対応しているか、ハンディ機のコネクター形状(SMA型、BNC型など)に適合するかを確認してください。
アンテナ設置のポイントは、できるだけ垂直に立て、身体や金属物から離すことです。
これにより、電波の放射効率が向上します。ザックに装着する場合、アンテナがザック本体や身体に密着しないよう工夫すると良いでしょう。
スピーカーマイクの活用
スピーカーマイクを使用すると、ハンディ機本体をザックやポケットに入れたまま、手元で送受信操作や音声の入出力ができます。
操作性が向上するだけでなく、本体を雨や衝撃から保護する効果も期待できます。
特に悪天候時や、頻繁に通信を行う場合に便利です。
防水性能を持つスピーカーマイクも市販されています。
バッテリー管理と省電力運用のコツ
登山中にハンディ機のバッテリーが切れてしまっては、せっかくの装備も役に立ちません。
事前の準備と、登山中の省電力運用が重要になります。
予備バッテリーの携行
日帰り登山であっても、満充電にした予備バッテリーを必ず携行しましょう。
長期の縦走登山では、複数個の予備バッテリーや、充電手段の確保が必要です。
- 純正バッテリー: メーカーが保証する性能と安全性がありますが、比較的高価です。
- 互換バッテリー: 安価な場合が多いですが、品質や性能にばらつきがある可能性もあります。
信頼できるメーカーのものを選びましょう。
充電手段の確保
長期山行では、モバイルバッテリーやソーラーチャージャーが役立ちます。
ただし、ハンディ機によってはUSB充電に対応していないモデルもあるため、事前に確認が必要です。
DC/DCコンバーターなど、専用の充電アクセサリーが必要になる場合もあります。
省電力運用のテクニック
- パワーセーブ機能(スケルチセーブ、バッテリーセーブ)の活用: 多くのハンディ機には、受信待機中の消費電力を抑える機能が搭載されています。設定を有効にしましょう。
- 送信出力の調整: 通信相手が近い場合や、レピーター(中継局)を利用する場合は、送信出力を低く設定する(例: 5W → 1Wや0.5W)ことで、バッテリー消費を大幅に抑えられます。
状況に応じて切り替えましょう。 - バックライトの消灯: ディスプレイのバックライトは意外と電力を消費します。
不要な場合は消灯するか、点灯時間を短く設定しましょう。 - GPS機能のOFF: GPS機能搭載機の場合、常時測位しているとバッテリー消費が大きくなります。必要な時だけONにする、測位間隔を長くするなどの設定が有効です。
- こまめな電源OFF: 長時間通信の必要がない休憩時などは、電源を切っておくのも有効な手段です。
低温下での注意
リチウムイオンバッテリーは低温環境下で性能が低下し、使用可能時間が短くなります。
冬山など気温が低い場所では、ハンディ機や予備バッテリーを懐に入れるなどして、冷やしすぎないように保温する工夫が必要です。
定期的な管理
登山前日には必ずバッテリーを満充電にし、予備バッテリーの状態も確認しましょう。
長期間使用しない場合でも、過放電を防ぐために定期的に充電することをおすすめします。
悪天候下での無線機保護対策
登山では、突然の雨や霧、強風に見舞われることも少なくありません。
精密機器であるアマチュア無線ハンディ機を、水濡れや衝撃から守るための対策は必須です。
防水・防塵性能の確認
多くの登山向けハンディ機は、ある程度の防水・防塵性能を備えています。
性能は「IPコード」で示され、「IPXY」のように表記されます。Xが防塵等級、Yが防水等級を表します。
例えば「IP67」であれば、「粉塵の侵入が完全に防護され、かつ、規定の圧力、時間で水中に浸漬しても有害な影響を受けない」レベルを示します。
最低でもIPX4(防沫形)以上、できればIPX7(防浸形)程度の防水性能があると安心です。
防水ケースやビニール袋の活用
無線機自体の防水性能が高くても、万全を期すために防水対策を施しましょう。
- 専用防水ケース: 各機種に対応した専用品や、汎用の防水ケースが販売されています。
操作性を損なわずに保護できます。 - ビニール袋(ジップロックなど): 手軽で安価な方法ですが、操作性は低下します。
二重にするなど工夫するとより安心です。
袋に入れる際は、内部の空気をできるだけ抜きましょう。
端子カバーの確認
外部マイク・スピーカー端子や電源端子には、通常ゴム製のカバーが付いています。
これらのカバーがしっかりと閉まっているかを確認してください。
隙間があると、そこから水が浸入する可能性があります。
濡れた手での操作
雨天時など、手が濡れた状態で操作すると、滑って落下させたり、端子部分から水分が侵入したりするリスクがあります。
タオルで手を拭いてから操作する、あるいはスピーカーマイクを活用するなどの配慮が必要です。
結露対策
寒い屋外から暖かい山小屋やテントに入ると、急激な温度変化で無線機内部に結露が発生することがあります。
結露は故障の原因となるため、すぐに暖かい場所に置かず、タオルにくるむなどしてゆっくり温度に慣らすようにしましょう。
防水袋に入れていた場合は、袋から出す前に周囲の温度に馴染ませるのが効果的です。
スピーカーマイクの利用
前述の通り、スピーカーマイクを使用すれば、本体をザックの中など比較的安全な場所に収納したまま運用できるため、本体を直接雨風に晒すリスクを低減できます。
防水タイプのスピーカーマイクを選べば、さらに安心感が高まります。
これらの携帯・運用テクニックを実践することで、アマチュア無線ハンディ機は登山の頼れるパートナーとなります。
安全で快適な登山のために、ぜひ参考にしてください。
アマチュア無線コミュニティと登山
登山におけるアマチュア無線の活用は、単なる連絡手段にとどまりません。
アマチュア無線を通じて形成されるコミュニティは、登山愛好家にとって貴重な情報源であり、安全確保のためのネットワークともなり得ます。
経験豊富な登山家や無線家との交流は、技術の向上はもちろん、登山の楽しみをさらに深めてくれるでしょう。
ここでは、登山に役立つアマチュア無線コミュニティへの参加方法や、その活動内容について詳しく解説します。
山岳無線ネットワークへの参加方法
日本におけるアマチュア無線の統括団体である日本アマチュア無線連盟(JARL)は、アマチュア無線家が登山中に運用する「山岳移動」をサポートしています。
特定の周波数で定期的に情報交換(ロールコール)が行われたり、山岳移動を楽しむ無線家同士が交信したりするネットワークが存在します。
これらのネットワークに参加するための基本的なステップは以下の通りです。
- アマチュア無線技士の資格取得: まずは、総務省が管轄するアマチュア無線技士の国家資格を取得する必要があります。
登山でのハンディ機利用であれば、第四級アマチュア無線技士(4アマ)から始めるのが一般的です。 - 無線局の開局申請: 資格取得後、使用する無線機(ハンディ機など)を準備し、総務省に無線局の開局申請を行い、無線局免許状を取得します。
- JARLへの加入(推奨): JARLに加入すると、機関誌やウェブサイトを通じて山岳移動に関する情報や、各地のロールコール情報などを得やすくなります。
また、QSLカード(交信証)の転送サービスなども利用できます。 - 情報収集と交信の実践: JARLの情報やインターネット上のコミュニティ、地域の無線クラブなどを通じて、山岳移動でよく使われる周波数やロールコールの情報を収集します。
実際に山に登り、他の無線家との交信を試みることで、ネットワークへの参加が始まります。
特に、430MHz帯のFMモードは、ハンディ機での山岳移動運用で広く利用されています。
山岳無線ネットワークへの参加は、登山の安全性を高めるだけでなく、同じ趣味を持つ仲間との出会いの場ともなります。
各地の山岳無線クラブの活動
日本全国には、登山とアマチュア無線を愛好する人々が集まるクラブや同好会が存在します。
これらのクラブは、地域に根差した活動を通じて、メンバー間の親睦を深めるとともに、山岳無線に関する情報交換や技術向上を図っています。
主な活動内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 定例会(アイボールミーティング): メンバーが直接顔を合わせて情報交換や親睦を深める会合。
- 山岳ロールコール: 特定の日時と周波数を決めて、山岳移動中の局や麓の局が互いの電波状況や安否を確認しあう定時交信。
- 合同移動運用: クラブメンバーで一緒に山に登り、アマチュア無線を運用するイベント。初心者にとっては、経験者から直接指導を受けられる良い機会です。
- 技術講習会: 無線機の使い方、アンテナの設置方法、効率的なバッテリー運用など、実践的な技術を学ぶ勉強会。
- 情報交換: メーリングリストやウェブサイト、SNSなどを活用し、山の状況、気象情報、おすすめの運用スポットなどの情報を共有。
お住まいの地域や興味のあるエリアの山岳無線クラブを探すには、JARLの支部情報やインターネット検索が有効です。
以下にいくつかの例を挙げますが、活動状況は変動する可能性があるため、最新情報は各クラブのウェブサイト等でご確認ください。
クラブ・団体の種類(例) | 主な活動内容 | 情報入手のヒント |
---|---|---|
地域名を冠したアマチュア無線クラブ(山岳部会など) | 地域密着型の情報交換、合同移動運用、ロールコール | JARL支部ウェブサイト、インターネット検索(例:「〇〇県 山岳無線 クラブ」) |
特定の周波数帯や通信方式に特化したグループ | 技術的な情報交換、実験、コンテスト参加 | 専門誌、インターネット上のフォーラム |
大学や企業の無線部・同好会 | OBや関係者中心の活動、若手育成 | 各団体のウェブサイト、関係者からの紹介 |
積極的にクラブ活動に参加することで、登山と無線の知識や経験を深め、信頼できる仲間を作ることができます。
無線を通じた登山情報交換の実際
アマチュア無線は、リアルタイムでの情報交換が可能な点が大きな魅力です。
特に山岳地帯では、携帯電話の電波が届かない場所でも、無線を通じて貴重な情報を得たり、伝えたりすることができます。
実際に無線を通じて交換される登山情報の例としては、以下のようなものがあります。
- 山のコンディション: 「〇〇山の山頂付近は強風です」「〇〇ルートはぬかるみがひどい」といった現地のリアルタイムな状況。
- 天候情報: 急な天候変化(霧、雷雲の接近など)に関する情報共有。
- ルート情報: 「登山道〇〇分岐で道迷い注意」「〇〇付近で崩落箇所あり」といった危険箇所の情報。
- 他の登山者の状況: 「〇〇山頂に〇名の登山者あり」「〇〇付近で休憩中のグループを確認」といった情報(プライバシーには十分配慮が必要です)。
- 下山報告や安否確認: 予定時刻になっても下山連絡がないメンバーの状況を、山中の他の無線家に問い合わせるなど。
- 技術的なアドバイス: 無線機の運用方法やアンテナに関する相談など。
情報交換は、主に山岳移動でよく使われる周波数帯(VHF/UHF帯など)で行われます。
特に、433.00MHz付近(地域によって異なる場合あり)は、山岳移動局同士の呼び出しや情報交換に使われることがあります。
また、各地の山岳ロールコールに参加することで、広範囲の情報を効率的に収集できます。
ただし、無線で得られる情報は、発信者の主観や状況認識に基づいている場合があるため、情報の正確性については常に注意を払い、複数の情報源を確認するよう心がけることが重要です。
また、交信においては、他の無線家の迷惑にならないよう、マナーを守り、簡潔明瞭なコミュニケーションを心がけましょう。
アマチュア無線のコミュニティに参加し、積極的に情報交換を行うことは、登山の安全性を高め、より豊かな登山体験をもたらしてくれるでしょう。
スマホと無線機の併用戦略
登山において、スマートフォンは地図アプリや情報収集ツールとして非常に便利ですが、山間部では圏外になりやすく、バッテリー消費や低温、衝撃にも弱いという側面があります。
一方、アマチュア無線ハンディ機は、携帯電話網がなくても独立して通信でき、堅牢性にも優れていますが、情報量や利便性ではスマホに劣ります。
この二つのデバイスは対立するものではなく、それぞれの長所を活かし、短所を補い合うことで、登山の安全性と利便性を飛躍的に高めることが可能です。
ここでは、スマホとアマチュア無線ハンディ機を賢く併用するための戦略について解説します。
スマホアプリとアマチュア無線の連携
近年、スマートフォンのアプリとアマチュア無線機を連携させる技術が登場しています。
代表的なものがAPRS(Automatic Packet Reporting System)です。
これは、GPSで取得した位置情報や短いメッセージを、アマチュア無線の電波に乗せて送受信するシステムです。
対応するアマチュア無線機(例えば、八重洲無線のFT5DやケンウッドのTH-D74など、GPSを内蔵しAPRS機能を持つモデル)と、スマートフォンアプリ(Android用の「APRSdroid」など)をBluetoothなどで接続することで、以下のような連携が可能になります。
- スマホの地図アプリ上に、自分や他のAPRS運用局の位置をリアルタイムで表示する。
- スマホのキーボードを使って、短いテキストメッセージを作成し、無線機経由で送信する。
- 他の局から送られてきたメッセージをスマホ画面で確認する。
これにより、圏外エリアでも仲間同士の位置確認や簡単な連絡が、スマホの分かりやすいインターフェースを通じて行えるようになります。
ただし、APRSを利用するには対応する無線機とアプリが必要であり、設定もやや複雑な場合があります。
また、インターネットゲートウェイ(IGate)局を経由してインターネット網に接続することも可能ですが、その場合はスマホのデータ通信が発生します。
電波の届く範囲は、通常の音声通信と同様に地形や出力に依存します。
GPSロガーとしてのスマホ活用
スマートフォンのGPS機能は非常に高精度であり、多くの登山者に愛用されている地図アプリ(例:「YAMAP(ヤマップ)」など)は、GPSログ(移動経路の記録)を簡単に取得・保存できます。
この機能は、以下の点で非常に役立ちます。
- 歩いてきたルートを正確に記録し、道迷い時の確認や、下山後の振り返りに活用できる。
- 現在地を地図上で正確に把握できる。
- 登山計画との比較や、ペース配分に役立てられる。
アマチュア無線との連携という観点では、万が一遭難や道迷いが起きた際に、スマホのGPSで取得した正確な緯度・経度情報を、アマチュア無線を使って救助隊や仲間に伝えることが極めて重要になります。
スマホが圏外でもGPS機能は動作する場合が多いですが、その情報を伝える手段がなければ意味がありません。
普段から自分の使っている地図アプリで緯度経度を表示する方法を確認し、それを正確に読み上げ、無線で伝える練習をしておくことが推奨されます。
代表的な登山地図アプリの情報は、公式サイトで確認できます。
バックアップ体制としての無線機の位置づけ
登山において、スマートフォンは非常に便利なツールですが、その弱点を理解しておく必要があります。
特に、バッテリーの消耗は深刻な問題であり、低温下ではさらに性能が低下します。
また、落下による破損や水没のリスク、そして何より山間部での「圏外」という通信インフラの限界があります。
ここで、アマチュア無線ハンディ機の存在価値が高まります。
ハンディ機は、独立したバッテリーで動作し、携帯電話網のような大規模なインフラを必要とせず、直接電波を送受信することで通信が可能です。
多くのモデルは防水・防塵・耐衝撃性能を備えており、過酷な環境下での使用を想定して作られています。
つまり、アマチュア無線ハンディ機は、スマートフォンが機能しなくなった際の、生命線とも言えるバックアップ通信手段として位置づけることができます。
両方を携行し、それぞれの特性を理解して使い分けることで、通信手段の冗長性が確保され、登山の安全性は格段に向上します。
以下に、登山におけるスマートフォンとアマチュア無線ハンディ機の主な特性を比較します。
特性 | スマートフォン | アマチュア無線ハンディ機 |
---|---|---|
通信方式 | 携帯電話網(3G/4G/5G)、Wi-Fi | 直接電波(シンプレックス)、中継局経由(レピーター) |
通信可能範囲 | 携帯電話基地局のサービスエリア内 | 見通し距離(数km~数十km)、レピーターのサービスエリア |
インフラ依存度 | 大(基地局、ネットワークが必須) | 小(直接通信の場合)、中(レピーター利用時) |
バッテリー | 消費が大きい、低温に弱い傾向 | 比較的長持ち、予備バッテリーの携行が容易 |
堅牢性 | 一般的に低い(機種による差は大きい) | 高いモデルが多い(防水・防塵・耐衝撃) |
緊急連絡 | 110番/119番(圏内であれば可能) | 非常通信周波数での呼びかけ、仲間との直接連絡 |
位置情報機能 | GPS内蔵(高精度、地図アプリ連携) | GPS内蔵モデルあり、APRS対応モデルあり |
免許・資格 | 不要 | 必要(アマチュア無線技士免許、無線局免許) |
主な利点 | 情報量、多機能性、操作の容易さ、地図アプリ | 圏外での通信、堅牢性、独立電源、グループ内連絡 |
主な弱点 | 圏外、バッテリー、低温・衝撃への弱さ | 免許必要、通信距離限界、情報量の少なさ |
結論として、登山における連絡手段や遭難対策を考える上で、スマートフォンだけに頼るのは危険です。
アマチュア無線ハンディ機をバックアップとして携行し、スマホと適切に併用することこそが、現代の登山において最も賢明で安全性を高める戦略と言えるでしょう。
初心者が始めるアマチュア無線と登山
登山中の万が一の事態に備え、アマチュア無線ハンディ機は非常に有効な連絡手段となり得ます。
しかし、利用するには資格や免許が必要であり、適切な知識と準備が欠かせません。
この章では、登山でのアマチュア無線活用を目指す初心者の方向けに、資格取得から実際の登山での運用開始までのステップ、必要な知識、そして練習方法について詳しく解説します。
無線資格取得から初登山までのステップ
アマチュア無線を登山で活用するためには、いくつかのステップを踏む必要があります。
焦らず、一つずつ着実に進めていきましょう。
ステップ | 内容 | ポイント |
---|---|---|
1. 情報収集 | アマチュア無線や登山における活用事例について調べる。 | JARL(日本アマチュア無線連盟)のウェブサイトや登山関連のコミュニティが参考になります。 |
2. 無線従事者免許の取得 | 第四級アマチュア無線技士(4アマ)以上の資格を取得する。 | 国家試験または養成課程講習会で取得可能です。初心者には講習会がおすすめです。 |
3. 無線機の選定・購入 | 登山に適したハンディ機を選ぶ。 | 防水性、バッテリー持続時間、操作性などを考慮しましょう。最初は中古品も選択肢の一つです。 |
4. 無線局の開局申請 | 総務省に無線局の免許を申請し、コールサインを取得する。 | 電子申請が便利です。無線機を購入してから申請します。 |
5. 交信練習 | 基本的な操作方法を習得し、実際に交信練習を行う。 | 自宅周辺や見通しの良い場所で練習しましょう。地域のクラブ局やロールコールへの参加も有効です。 |
6. 登山計画と準備 | 登山ルートや天候を確認し、無線機の携帯方法やバッテリー対策を計画する。 | 通常の登山装備に加えて、無線機関連の準備(予備バッテリー、防水対策など)を行います。 |
7. 初登山での運用 | 計画に基づき、実際の登山で無線機を運用してみる。 | まずは近郊の低山など、比較的安全な場所で試してみましょう。仲間との連絡や、山頂からのCQ(不特定多数への呼びかけ)などに挑戦します。 |
無線従事者免許とは
アマチュア無線を運用するためには、まず「無線従事者免許」という国家資格が必要です。
これは、無線設備を操作するための知識や技能を有することを証明するもので、個人の資格となります。
登山でハンディ機を使用する場合、最も一般的なのは「第四級アマチュア無線技士(通称:4アマ)」です。
4アマの資格があれば、登山でよく使われる144MHz帯や430MHz帯で、最大出力10W(ハンディ機は通常5W以下)までの無線機を操作できます。
4アマの資格を取得するには、主に2つの方法があります。
- 国家試験を受験する: 公益財団法人 日本無線協会が実施する国家試験に合格する方法です。無線工学と法規の知識が問われます。独学または参考書などで学習して臨みます。
- 養成課程講習会を受講する: 総務大臣の認定を受けた団体(JARLなど)が開催する講習会を受講し、最終日の修了試験に合格する方法です。講義形式で学べるため、初心者には理解しやすく、合格しやすいと言われています。
どちらの方法を選ぶかは、ご自身の学習スタイルや時間的な都合に合わせて検討すると良いでしょう。
無線局免許証とは
無線従事者免許を取得したら、次に「無線局免許証」を取得する必要があります。
これは、あなたが使用する無線機(無線設備)に対して与えられる免許です。
「誰が(無線従事者免許)」、「どの無線機で(無線局免許)」無線通信を行うかを明確にするためのものです。
無線局の免許申請は、無線機を用意した上で、管轄の総合通信局(または総合通信事務所)に行います。
申請が受理され、審査に通ると、あなた固有の識別信号である「コールサイン」が記載された無線局免許証が交付されます。
このコールサインは、アマチュア無線の世界でのあなたの名前のようなものです。
申請手続きは、書面による申請のほか、「総務省 電波利用 電子申請・届出システム Lite」を利用した電子申請が便利でおすすめです。
開局申請には、無線機の技術基準適合証明番号などが必要になりますので、事前に確認しておきましょう。
無線従事者免許と無線局免許証の両方があって、初めてアマチュア無線を運用できることを覚えておいてください。
無線機の練習方法と上達のコツ
免許を取得し、無線機を手に入れたら、いよいよ実践練習です。
登山で確実に活用できるよう、平時から操作に慣れておくことが重要です。
- 基本操作の習得: まずは取扱説明書をよく読み、電源のON/OFF、周波数の合わせ方、音量調整、スケルチ調整、送信(PTT)ボタンの使い方など、基本的な操作をマスターしましょう。
- 近距離での交信練習: 家族や友人に協力してもらい、免許を取得した者同士で近距離での交信練習をしてみましょう。お互いの声が明瞭に聞こえるか、操作に戸惑わないかを確認します。
- レピーター(中継局)の利用: 全国各地に設置されているアマチュア無線用の中継局(レピーター)を利用すると、より広範囲の局と交信できます。お住まいの地域やよく登る山の近くにあるレピーターを探し、アクセス方法を練習してみましょう。
- 定型的な交信の練習: アマチュア無線には、CQ(不特定多数への呼びかけ)、応答、レポート交換(信号の強さや明瞭度を伝える)、終了の挨拶など、定型的な交信手順があります。これらをスムーズに行えるように練習します。
- 電波の飛び方の理解: 山での電波の飛び方は、平地とは異なります。見通しの良い場所(稜線や山頂など)の方が電波が遠くまで届きやすいことを体感的に理解しましょう。様々な場所で実際に電波を出してみるのが一番の練習になります。
- バッテリー管理の練習: ハンディ機のバッテリーが登山中に切れてしまっては意味がありません。実際の使用状況でどのくらいバッテリーが持つのか把握し、省電力設定の活用や予備バッテリーの運用方法を練習しておきましょう。
- ロールコールへの参加: 地域によっては、決まった時間に特定の周波数で行われる「ロールコール」(点呼のようなもの)があります。参加することで、他のハム(アマチュア無線家)との交信に慣れる良い機会になります。
焦らず、楽しみながら練習を続けることが上達のコツです。
最初は簡単な交信から始め、徐々にステップアップしていきましょう。
まとめ
登山において、スマートフォンの電波が届かないエリアは依然として多く存在します。
万が一の事態が発生した場合、連絡手段がないことは深刻なリスクにつながりかねません。
特にソロ登山では、自力での連絡手段確保が極めて重要です。
この記事では、スマホが繋がらない山での有効な連絡方法として、アマチュア無線ハンディ機の活用を強く推奨してきました。
衛星電話は確実性が高いもののコストが高く、特定小電力トランシーバーは通信距離に限界があります。
その点、アマチュア無線ハンディ機は、適切な知識と資格があれば、比較的安価に導入でき、中継局(レピーター)を利用することで広範囲な通信が可能になるなど、登山における連絡手段として大きな可能性を秘めています。
アマチュア無線を利用するには、無線従事者免許の取得と無線局の開局申請が必要ですが、そのハードルを越えることで得られる安全への備えは計り知れません。
ハンディ機は、平時のグループ登山での連絡調整はもちろん、遭難や滑落といった緊急事態発生時に、自身の状況や正確な位置情報を外部に伝え、迅速な救助を要請するための重要なツールとなり得ます。
D-STARやC4FMといったデジタル通信方式を活用すれば、より明瞭な音声通信やデータ通信も可能です。バッテリー管理やアンテナの選択、防水対策など、適切な運用知識を身につけることで、その効果を最大限に引き出すことができます。
登山における安全確保は、何よりも優先されるべき事項です。
スマートフォンの通信圏外リスクを理解し、バックアップとなる通信手段を持つことは、現代の登山において必須の備えと言えるでしょう。
アマチュア無線ハンディ機は、その有力な選択肢の一つです。この記事を参考に、ぜひアマチュア無線の資格取得とハンディ機の導入を検討し、より安全で安心な登山を楽しんでください。
- 登山ではスマホが繋がらない場所が多く、代替の連絡手段確保は安全登山に不可欠です。
- アマチュア無線ハンディ機は、広範囲通信や緊急連絡において有効な手段となります。
- レピーター(中継局)の利用やデジタル通信方式(D-STAR、C4FM)で、より確実な通信が可能です。
- 遭難時には、正確な情報伝達により迅速な救助活動に繋がる可能性があります。
- 利用には無線従事者免許と無線局免許が必要ですが、安全確保のための重要な投資です。
- 事前の準備、機器の選定、運用練習が、いざという時の適切な活用に繋がります。
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